第8章 リスペクト
前回、「会社で夢中に仕事ができる環境が少なくなった」というお話をしましたが、なぜこうなってきてしまったのか、どうすればここから脱することができるのかについて私自身の考えをご紹介したいと思います。
今回はフットボールのことよりビジネスの話が多くなります。また、少し長く、細かい話も出てくるのですが、辛抱してお読みいただければ幸いです。
1. なぜ社員は元気を失ったか―「リスペクト」と「契約的信頼関係」
サラリーマンがハッピーな時代がありました。少なくともバブルがはじける前まではそうだったと思います。しかし今の勤め人は幸せに見えません。元気もありません。これが日本企業の元気のなさとかぶります。
昔の勤務は今の定義でいえば結構ブラックでした。総労働時間も今は劇的に減っています。以前は土曜が半日出勤の時代さえありました。また、物理的な生活レベルも金額で表せばかなり低かったはずです。
それでもサラリーマンの将来は明るいものでした。社会全体が成長しているという追い風もあり、会社もずっと伸びていくものとみんな思っていました。自分のリタイアまでの絵が描け、それを信じてローンを組んで家も買いました。
そのころ、特に大企業に勤める人たちにとって、キャリアとは社内で自分が歩んでいく道のことであり、そのキャリアを目指してがんばることができました。周囲はライバルであると共に仲間でもありました。この勢いが、世界を驚かせた日本企業成長の原動力の大きな部分であったことは間違いありません。
しかしこの仕組みがいつしか壊れてしまいました。
世界経済の波に追いつこうと何とか方向転換はしたものの、国際的な位置付けは下がり、以前のような成長基調の企業が少なくなってしまいました。企業は変化することが宿命ですが、それまでの量的な急速拡大という変化には乗ったものの、質的な多次元にわたる変革のドライブができなかったというべきでしょうか。
結果、サラリーマンは社内で自分のキャリアを描けなくなってしまったのです。
日本人が元来持っている力やこれまで先達が蓄えてきた歴史を考えれば、もう一度日本企業全体が力を発揮して、以前のような輝きを取り戻したいものです。そのためには働く人たち、ビジネスパーソンたちが今一度元気と輝きを取り戻すことが必須です。
では、どうすれば今日的環境の中で、今一度日本のビジネスパーソンがハッピーで前向きなエネルギーを持って働くことができるようになるのでしょうか。
そのためには2つのキーワードがあると私は思っています。それは「リスペクト」と「契約的信頼関係」です。
「リスペクト」とは経営者が社員をプロのビジネスパーソンとして認め、相応の扱いをし、プロにふさわしい環境を提供すること、そして社員もプロの自覚を持って自分を律していくこと、一方で「契約的信頼関係」とは、経営者と社員が互いへのリスペクトをベースに、働く上での約束事を明確な形で交換しておくことを意味します。
2.社員への「リスペクト」の意識とは
■ビジネスパーソンにとってのキャリア
ビジネスパーソンにとってキャリアは大切です。こんな道を歩いていきたいと追い求めること、これがビジネスパーソンの原動力です。しかし社内ではそのキャリアを描きづらくなっています。この結果、やる気があって力のあるビジネスパーソンが、人材市場に機会を求め、複数の会社を渡りながらその道〈キャリア〉を達成しようとすることが特別なことではなくなってきました。
ビジネスパーソン側には自分の考えや責任でキャリアを作っていく意識を持った人が増えてきました。プロとしてパフォーマンスを上げながら常に自分の市場価値を上げていくことが自分のキャリアに直結するからです。これは至極当然なことで、ひとつの会社のお抱えで自分の人生を決めてもらうこと自体そもそも不自然だったのです。
ただ問題は、社員をプロとして扱おうというスタンスにある会社がまだ少ないこと、言わばビジネスパーソン側から見てプロが活躍する社会基盤が脆弱なことです。
■経営者に求められること
経営者の重要な仕事のひとつは、会社の事業のゴールを明確にした上で、そこに到達するために現在の社員をどんな方向にどうやって育成するか、そして足りない部分は外からの採用で埋める、この計画とプロセスをきちんと作ることです。
しかし、このプロセスを戦略的に考え、計画し実行している経営者は残念ながら多くはありません。事業を進めてみてから人材が足りないことに気づき、慌てて好条件で採用する。このため結果として既存の社員は育成されず、事業の変化から外れてお荷物になってしまっている。言うなればその場しのぎの「人材計画」が横行しているのです。
もしかすると、経営者としての基本の教育を受けずに、会社の日々の事業への貢献の結果として経営のレベルに昇進した人たちが多くなってきたからなのでしょうか。
こういう状況では、社員には自分のキャリアは見えなくなり、たとえば今から5年間、自分にはどんな機会が与えられ、どれだけビジネスパーソンとしての市場価値を上げることができるか見当もつかなくなります。中途で入った人たちもすぐこれに気づきます。プロ意識を持っている人から見れば「ここにいても意味がない」状況となります。
■意味のある転職とは
転職で給与やポジションが上がって「得した」という話を聞くことがありますが、基本的に人の市場価値は転職によって上がるものではありません。自分の市場価値を上げ、それに見合ったジョブと出会い転職をすること、さらに上を目指すことのできる転職をすること、これが意味のある転職です。
転職が増えること、これは健全なことで、各ビジネスパーソンは自分のステージや市場価値に合ったジョブを見つけ、会社の方も今の事業に必要な人材を求め採用し、チームを常にリニューアルしていく。そのプロセスの中でお互い緊張感を持った信頼関係を結んでいくことで人材市場は活性化し、企業の事業展開を押し上げます。
ここで言っているのは、決して「短期間で人を入れ替えるべき」ということではありません。会社自体が、環境変化に対応し変化しながら成長する中で、常にクリアな事業計画と人材計画を持ち、この計画を遂行するために必要な人材を内外にフェアに求めていくということなのです。
これは決して使い捨てではありません。むしろその逆です。事業計画に連動した人材計画があるわけですから、十分な期間を取って人を計画的に育成することができます。企業にしてもすでに雇用し、その能力を認めている社員を育成して人材需要を埋める方が、リスク管理の点からもコストの面からもうんといいはずです。かつ、これは社員からみて大変モチベーションの湧く状況であり、会社と社員の信頼関係構築にも大きく貢献します。また社員との信頼関係ができている会社は中途採用候補者にとっても魅力的で、良い人材が採れるエンジンにもなります。
このように、企業が社員をプロのビジネスパーソンとして認識し、彼らの市場価値向上と会社の成長とを連動させようとすること、これこそが企業がベースとして持つべき社員への「リスペクト」の意識です。
ならどうやってリスペクトの風土を作っていけばいいのでしょうか?
■リスペクトの実現
「うちは人を大切にしている企業」と宣言している会社は多く、人材をあえて「人財」と置き換えることも流行しています。しかし、本当のリスペクトを実現している会社は多くはありません。
リスペクトを実現するためのベースとして人事制度そのものはもちろん大事です。いわゆるメンバーシップ型からジョブ型に転換することがスタート地点になります。職能資格から 職務等級への転換、新卒中心から中途採用拡大へ、市場価格重視の賃金水準などなど、このあたりは専門家から多くの情報が発信されています。
しかし、こういったアイテムが導入されてきてはいるものの、運用の段階になると旧来のマインドが色濃く顔を出し、せっかくの新制度が効果的に運用されていないのが現状です。
新制度導入時には経営が「人財を大切にするため」という意気込みを宣言したりします。しかしそのことで、社員がかえってしらけてしまうことすらあります。残るのは人事コンサルティング会社からの多額の請求書だけという皮肉な結果が見えます。
長年染みついた風土・文化を変えるのは容易ではありません。新しい制度を入れても、そもそも運営の責任者である経営者や管理職は、これまで通りの世界しか経験していないことがほとんどです。
そこで、社員のリスペクトを進める新制度を本気でやろうとするならば、2つの重要なアクションを本気で進める必要が出てきます。
3.事業計画と人材計画の連動 ~ 重要アクション
■事業計画に綿密な人材計画を織り込む
ひとつは事業計画の中になるべく綿密な人材計画を織り込むことです。
事業計画を策定するとき、たとえば3年後のP/L(損益計算書)の数値はしっかりと作るはずです。売上、費用、利益の数値をどう組み立てるかブレークダウンし詳細な分析をして、ロジックをきちんと組み立てることはやるでしょう。
こうやって描いた事業計画を実行するためにそれ相応の人材が必要なことは当然ですが、人数の計算はしているものの、その内容についてはきっちりと詰め切っていない事業計画が多いのです。
例えばここに3年後にある数値を達成するための事業内容があります。その事業を遂行するための人数と人件費は当然計算します。しかし大事なのはその次のステップで、事業遂行のためのその人数の中身はどうなるか、どんなレベルのどんな技能の社員がそれぞれ何人ずつ必要となるか、この組み立てを実感を持って詳細に行うことが大切です。これには経営企画のメンバーだけでなく、事業の各パートの現場感覚を持つ社員も参加するべきです。
こうして3年後の目標の事業遂行のための社員のチームメンバーの詳細が、経験、技能等のレベルにより明確化されることになります。これを仮に3年後の「人材ポートフォーリオ」と呼ぶことにします。
■個々の社員のレベル、経験、技能の明確化
次は現状の社員のレベル、経験、技能を分析し明確化することです。この「現状」からさらに3年間の予想退社人材を除いたもの、これが出発点となり、この出発点と3年後の人材ポートフォリオのギャップ分析が次の作業となります。ギャップがわかり、このギャップを埋めることが3年間の人材計画で、活動の中身は育成と採用です。(図2)
通常の事業計画には必ず採用数や既存社員の育成の計画も含んでいるものですが、ゴールでの人材需要を詳細まできちんと視野に入れた計画は滅多になく、この結果、社員の育成計画と現実とに齟齬が出たり、結果としてその場しのぎの中途採用や勢いで新卒数を決めるなど、アクションがバラバラになる原因になります。
4.個別の社員との一貫したコミュニケーション ~ もうひとつの重要アクション
■双方向のコミュニケーションがとれているか
こうして、もし中期の事業計画にきちんとした人材ポートフォリオの概念が織り込まれていれば、既存社員の中からどんなタレントをどれだけ育成しなければならないかもクリアになってくるはずです。このゴールがあれば、会社は誰をいつまでにどこまで引き上げたいか、具体的なストーリーを作ろうとするはずです。そしてこの意図をそれぞれの社員にいろいろな形で伝え、育成のための計画についても双方向のコミュニケーションが起きてくる。これこそ会社と社員が一緒に成長しようという計画です。
ただ、これを前に進めるためにはもうひとつ乗り越えなければならないハードルがあります。それは会社と個々の社員とのコミュニケーションの部分で、ここがどうしても貧弱な企業がまだ多いようです。このコミュニケーションの強化が社員への「リスペクト」を進める上での2つ目の重要なアクションなのです。
ここで言うコミュニケーションとは、特別に新しいコンセプトのアクションのことではなく、すでにほぼすべての企業で制度化されているアイテムのことです。例えば個々の社員の年度毎の目標設定、中間評価/フィードバック、期末評価、評価の給与/昇格等への反映などの年間行事とともに、もう少し長期的な育成計画やキャリア計画といった部分のコミュニケーションのことです。仮に「評価・育成制度」と呼ぶことにします。
この「評価・育成制度」は、多少内容の違いはあっても、どこの企業でもかなり以前から取り入れられています。しかし制度の目的は立派で、額面通りに動けば行き届いたものであるのに、実際にはその運用が形骸化しており、残念ながら「社員へのリスペクト」を果たすプロセスとして十分には機能していない場合が多いのです。
このような、評価・育成について機能低下に陥っている典型的な企業の例をお話します。
■おざなりな評価・育成プロセスの弊害
この企業では、毎期末、評価の時期が来ると、管理職(評価者)の多くは、忙しく時間のない中で何とか評価面談をこなそうと四苦八苦します。評価結果の説明も必ずしも納得のいくクリアなものでない場合が多く、評価を受ける側としてもおざなりの印象を持ちがちです。
その後の2次(最終)評価になると問題はもっと深刻になります。1次評価をもとに、同組織・同ランクの社員の評価は、結局のところ正規分布のベルカーブの中で並べられ、マジョリティが中間レベルの評価ゾーンに入ることになります。しかもこの2次(最終)評価のプロセスがきちんと個別社員に説明されず、結果だけが書類/メールの形で伝えられるケースが多く、その結果、社員としは自分の評価について納得のいく基準を見つけられなくなります。
これに加え、期初の目標設定やその評価基準があいまいなことで、結局、評価のコミュニケーション自体もあいまいな雰囲気に終始してしまう例が多々見られます。
そしてもっと課題の大きいのが評価に基づく育成・キャリアについてのコミュニケーションです。そもそも各上司(評価者)は個々の社員のキャリアの可能性について、具体的で意味のある情報を持っていないし、どうコミュニケーションをすればいいのか必ずしもそのスキルを身につけていないのです。
本来、「評価・育成プロセス」での面談は、会社/上司が個々の社員と向き合い、その育成・キャリアについて真剣に議論し、信頼関係を築いていく絶好の場なのですが、残念ながらこの企業では社員からの信頼を失う場面になってしまっているのです。
これはある企業の例ですが、同様の悩みを持つ企業は数多くあり、これが企業の中での社員へのリスペクトが維持されず、社員が夢中になって働こうという環境ができない大きな原因のひとつになっていると感じます。
なぜこうなってしまうのでしょうか?
これまでのパートナーシップ型雇用や無限定正社員が主流であった時代の「評価・育成のプロセス」は曖昧な要素が大きいものでした。この曖昧さに対して会社、社員両者とも無言の納得感があり、「いずれにしても長期で勝負」という逃げ道が気持ちの中にあったように思います。制度だけ「ジョブ型」に転換した場合でも、これまでに出来上がり染みついた文化が日本の企業にはいまだ強烈に残っている場合が多い。この風土が原因で、現行制度の曖昧な運用がそのまま放置されてしまっているのではないかと思います。
この殻を破り、社員へのリスペクトを実現するためには、会社と社員がお互いプロとしてのコミュニケーションを行える「契約的信頼関係」を構築する必要があるのです。
そのために、すでにある「評価・育成制度」の運用に魂を通わせるべく2つ大事なポイントがあると考えます。
■「評価・育成制度」の2つの大事なポイント
①管理職(評価者)への意識付けとサポート
評価・育成制度の運用が上手くいかないことに対して、各レイヤーの管理職(評価者)が犯人扱いされる場合が多いのですが、実は彼らはむしろ犠牲者だと思います。
多くの会社で見てきましたが、管理職になると「評価・育成ができてこそ管理職」としていきなり多くの荷重を与えられます。でも、彼らの勤務状況や職場の現状を見れば、制度が要求しているような丁寧な評価・育成のアクションができる環境にない場合が多く、そんな中であるべき論だけ押し付けられ「やって当たり前」のプレッシャーで片づけている現場をよく見ます。
しかも、一般的な管理職トレーニングはあっても、部下との間でこのような内容のコミュニケーションをどのよう進めるべきかについて有効な教育はあまりされません。そもそもこういう企業の場合には、この管理者が一般社員だった時に管理者から然るべき扱いを受けていないため、経験値から言ってもどうしていいのかわかりません。おまけに彼/彼女の上司の管理職の人たちも同じ状況のためOJTも進みません。
「評価・育成」を制度の目論見通り進めるようとするなら、まずは管理職へのリスペクトを高め、彼ら/彼女たちが十分に活動できる環境を整え、また然るべき教育のサポートを与えるべきです。そして彼/彼女自身の目標設定の中にも「部下の育成・評価」をきちんと入れ、その実行をその上の管理者がサポート、フォローしていくことが必要です。
②経営者のコミットメント
この「管理職へのリスペクト」を実現するためには経営レベルのコミットメントが必須になります。前述のように「評価・育成制度」は日本の企業ではあまりに昔からある当たり前のプロセスであるために、経営から見ても「現場で良きに計らえ」的な位置づけが多いようです。
そうではなく、企業が人材活用について本質的転換を果たしていくためには、経営者自らが今一度この部分に深く入り込み、制度の詳細やその運用の実態が「現場の活性化」という思惑どおりに機能しているかどうか、確認をするべきだと思います。そしてそこで見つかった課題の解決に経営がきちんとコミットしていくことが何より大切です。
実はこの「評価・育成」のプロセスですが、経営に近いレベルに行くほど形骸化している例を何社も見てきました。経営といっても、取締役会やホールディングスの幹部の場合は少し今回の話からは外れるかもしれません。いわゆる実業を持つユニットの幹部社員のあたりの課題です。長年の付き合いがあり、日ごろから近しく業務をしているからでしょうか、公式なプロセスとなると照れもあるのか「今更あらたまっても」の雰囲気が出てしまい、本来あるべき真剣な議論が持たれないということがあります。
ここは、会社全体に「評価・育成」プロセスをきちんと行き渡らせるためにも、まずは経営に近い幹部社員が居住まいを正すことから始めたいところです。
5.ウォリアーズでの学生の育成
翻って今日の運動部の学生をどう育成していくかを考えるとき、今の企業が直面する課題とオーバーラップする部分があります。
大学のスポーツは4年間という限られた時間です。この中で一刻も早い育成が必要になりますし、学生側もこの4年間で言わば学生スポーツでのキャリアを全うしなければなりません。
40年ぶりに現場に戻ってきた私は、学生たちの部活動への姿勢が大きく変わっているのに驚きました。
■納得した時に最も大きなエネルギーを発揮
強くなりたい、うまくなりたいという気持ちの強さは変わっていませんが、アプローチの仕方、その背景にある気持ちの持ち方は大分違います。昔との一番大きな差は、何をやるにも彼らには納得感が必要だということです。言われたことをやみくもに必死でやっていく、昨日より今日が少しでも進歩すれば、という気持ちではなく、なぜそれをやるのか、やるべきことを理解し納得した時に最も大きなエネルギーを発揮するようです。これは東大だけでなく他大学でも起きている変化だと聞きます。
東大ウォリアーズヘッドコーチの森は現代の学生のこのメンタリティをいち早く把握し、その指導に活かしています。森は京大やXリーグの指導者時代にはかなり厳しいことで有名でした。しかし今は一変して学生の気持ちを理解し、指導の実を上げています。言わば運動部の指導者として学生に対するリスペクトを示し、同時に彼ら自身に自律の心を育むよう厳しく求めているのです。
「今の若い人は・・・」という言い回しがあります。主にネガティブな内容に使われますが、これほど長きに渡り日本人が口にしてきたフレーズはないかもしれません。古文書にさえ出てくると聞いたことがあります。かく言う私も若いころ言われましたし、いまだに同年代の連中の口からよく聞きます。
それほど若者がいつの時代も問題を抱えているのか、それとも大人たちは自分が若かった時のことはさておき若者の未熟さが気になってしまうのでしょうか。
■社会の変化を先取りしている若者たち
私はウォリアーズを通して「今の学生」と付き合ってみて、実は学生たちが社会の変化を先取りしているのだと考えるようになりました。先取りしているからこそ、それについていけない年配の人たちは違和感を覚え「今の若い人は・・・」と感じるのだと思うのです。
いつの時代も若者は親や社会に育てられ大人になります。この過程で親や社会、学校は若者の将来を思い、これからの社会を背負うべき人間としの期待を込め教育をします。それが自然に若い人たちの態度や行動に反映される。つまり、「今の若い人」が映しているものは、社会が「変わらなければ」と悩みもがいている姿そのものなのではないかと思うのです。
個人に対するリスペクトの問題もそうです。実は親の世代が自分たちの反省から必要と感じていることで、それを若者が敏感に感じより大切にしたいと考え始めているのではないでしょうか。
ひょっとすると企業の経営者がこういった変化へのアジャストが一番遅れているのかもしれません。
ウォリアーズに戻り、森が学生たちを指導する姿を見て、卒業後ビジネスパーソンとしてずっと考えてきた「リスペクト」の考えが正しかったのだと思うことができました。
次回は、現在のスターバックスの創設者、ハワード・シュルツから受けた教えについてご紹介いたします。ハワードは私にとっては原田泳幸とともにビジネスの師匠なのですが、彼から受けた「社員をリスペクトする」というフィロソフィは、私のビジネスパーソンとしての根幹となり、また㈳東大ウォリアーズクラブを通してウォリアーズの学生たちの世話をする上でも大事な考え方になっています。
次回「第9章 ハワード・シュルツの教え」に続く。
コメント
唐松 星悦(からまつ しんえ) さん
2020年度 主将/LT (Left Tackle)
2020年度の主将を任されてチーム作りのスタートを切ったところですが、今年ウォリアーズをどんなチームにするべきか、考えれば考えるほど正解がないことに驚いています。
BIG8からTOP8に駆け上ったウォリアーズですが、その変化が激しかっただけに、この3年間、正直、学生たちは暗中模索の中で必死にもがいてきた感がありました。そして初めてTOP8に上がり、留まり、今年はいよいよ「勝つべくして勝つチーム」に生まれ変わらなければならないステージだと自覚しています。
それでも、どんなチームにすればよいのか、どんなチームが日本一を目指せるチームなのか、答えが見つかっていないのです。
しかし悩みの中にあって、今は、完全にクリアなゴールがなくてもいいのかもしれない、誰も経験していないことを具体的にビジョンするなんて無理だと考えていいのではないかと思うようになりました。
大事なのは、日本一になれると信じてそのためにはどうすればいいか、あるべきチームの姿を常に求め続けること、そして、とにかく今見えるチームのゴールの姿に向かうべく、あらゆる努力を傾注していくことなんだろうと考えているのです。
そのためには4年生の役割がとても大切になります。ウォリアーズは上下関係の少ないフラットな組織ではあるけれど、今の4年生が、これまで経験してきたこと、先輩たちから受け継いできた「勝つイメージ」を3年生以下の部員にいかに鮮明に伝えることができるか、そしていかに彼らに本気で日本一を目指すことを信じさせることができるか、これがウォリアーズのパフォーマンスを決めていくことになります。
この3年間の変革で、ウォリアーズにはトップチームとしての土台ができつつあり、部活動の環境や部員が体得している理論も既に一定のレベルに達していると思います。しかし、これからが本当の勝負で、これら土台の上に「勝利につながる取り組み」を築いていかなければなりません。目先に惑わされることなく、ゴールを常に見据え、本気で勝ちにいくための練習を日々積み重ねること、私たちのやるべきことはこれに尽きます。
私はこの度ALL JAPANに選ばれチームに参加してきましたが、このこともあくまで東大を日本一にするための手段であり、過程であると思っています。代表経験をいかにチームに有効にフィードバックし、チームワークやチーム力向上につなげるかが私の宿題です。
21歳と若輩の私ですが、この一年、チームを日本一にするために全てのエネルギーを注ぐことは、他のどんなことよりもやりがいがあって面白いし、このチームで日本一を目指すプロセスは人生のエッセンスが凝縮されていると確信しています。
ただ、求めているのは思い出や経験ではなく、あくまで勝利です。